巨大国家である中国は、人口と経済だけでなく、スポーツ大国としても知られています。世界最大の人口国家ですから、アスリートの人数も多い上に、共産党国家という一党独裁国家ならではのエリートアスリート育成システムも際立っています。とはいえ、中国からサッカー国のイメージは沸いて来ません。
サッカーの大会といえば4年に1度開催されるFIFAワールドカップ。中国人にとってFIFAワールドカップとはどんな存在なのでしょう。今回は、在住経験のある筆者が、中国人にとってのW杯、そしてその背景について、筆者が感じる印象をご紹介させて頂きます。
中国人にとってワールドカップとは?在住経験者が感じる7つの印象!
1. 国民的スポーツと言えば
中国の皆さんにとっての人気のスポーツと言えば、やはり卓球とバドミントンと言えるでしょう。オリンピックや世界選手権での優勝は数知れず、庶民が手軽に楽しめるスポーツとしても定着しています。
国技として認定されているわけではありませんが、一般的に卓球が中国における国技に当てはまると言われています。日本の皆さんにとっても、中国=卓球、とイメージされる方が多いのではないでしょうか。
ではサッカーはというと、熱狂的なサッカーファンがいる反面、一般的な知名度や人気は決して高いとは言えません。Jリーグが定着し、ワールドカップ出場常連国になったわが国でも、野球や相撲に比べて、サッカークラブや選手の一般的知名度や人気は引けを取っていると言えます。中国におけるサッカーは、わが国よりも更に低いレベルの普及度と言っても過言ではありません。
2. プロで活躍する世界的プレイヤーがいない
中国には日本の様に学校にクラブ活動がありません。ですから、文化部も体育部も無く、日本の様に中高大の各教育段階における全国優勝を目指す大会もありません。甲子園も高校サッカーも無いのです。
必然的に、従来から人気のスポーツというのは、中国国民にとって唯一一般認識できるスポーツの世界大会であるオリンピックで成績を残したスポーツになってしまうと言えます。それが1でご紹介した卓球でありバドミントンであるわけです。
一時期、初めて中国人バスケットボールプレイヤーとして姚明(ヤオ・ミン)選手がNBAで活躍してからは、バスケットボール人気に火がつきました。
また、日本のサッカー選手が次々とヨーロッパの主要リーグに移籍して活躍していますが、中国人サッカー選手がヨーロッパで活躍できている実情はありません。中国人にとって、サッカーはまだまだ縁の遠いスポーツなのです。
3. 日韓大会で初めてワールドカップに出場するも
日本が初めてFIFAワールドカップに出場したのは、1998年のフランス大会。ドーハの悲劇を経験した上で、アジア第三代表をかけて、マレーシアのジョホールバルで勝ち取った悲願のワールドカップ出場権でした。
そして、遅れること4年。2002年日韓で開催されたFIFAワールドカップに、中国は初めて出場を果たします。この大会は、アジアでの開催が初となったFIFAワールドカップであり、日韓両国が予選を免除された事により、中国の出場権獲得は、いわば運が良かったという側面がありました。
一方、本大会のグループリーグは運が悪く、優勝候補ブラジルと同組に入ってしまったこともあり、3戦全敗で敗退してしまいました。そして、その後現在まで、中国は再びFIFAワールドカップ出場を果たせていないのです。
日本に続いて初参加した大会で惨敗した事、そしてその後一度も出場できていない事から、一瞬にして湧き上がったサッカーブームは、逆に急速に冷めてしまいました。
4. 代表チームではなくクラブチームでワールドカップに出場
FIFAワールドカップは、各国代表チームが凌ぎを削るサッカー界最大の世界大会です。一方、各国のサッカークラブが凌ぎを削る世界大会がFIFAクラブワールドカップ。2002年以来FIFAワールドカップに出場できていない中国ですが、FIFAクラブワールドカップには、2度出場を果たしています。2013年と2015年の2度、広州恒大という広東省の省都である広州市を本拠とする中国きってのビッグクラブが出場を果たしました。
FIFAワールドカップは、大陸毎に出場枠が決められていて、大陸代表として数カ国の代表チームが出場します。一方FIFAクラブワールドカップは、各大陸から1チームしか出場することができません。つまり大陸チャンピオンにならない限り出場ができない狭き門なのです。
アジアは、アジアチャンピオンズリーグ(通称ACL)で優勝しないと出場ができません。日本からは、浦和レッズ、ガンバ大阪、鹿島アントラーズなどが出場を果たしています。
広州恒大というクラブは中国No.1とも言えるビッグクラブで、2012年には元イタリア代表監督のマルチェロ・リッピ氏、2016年からは元ブラジル代表監督のルイス・フェリペ・スコラーリ氏が監督を務める等、多額の資金をふんだんに使って、監督以外にも多くの有名外国人選手を入団させて、アジアで急速に実力を挙げているクラブなのです。
こうして、中国サッカー界は、国家の代表チームはFIFAワールドカップには縁遠い状態ですが、外国人監督と選手の力を借りて、クラブレベルでは着実に底力を上げて来ています。
経済大国になった中国が、資金力に物を言わせ、海外から大物サッカー人材を正に爆買いしている状態であるが故と言う事も言えますが、こういった背景があり、中国国内リーグのサッカーファンは、年々増加傾向に転じています。
5. リッピ監督への期待感
2013年に広州恒大の監督として、クラブを中国サッカークラブ初のアジアチャンピオンに導いた元イタリア代表監督リッピ氏。その実力を買われて、リッピ氏は中国代表を再びFIFAワールドカップに出場させるミッションを任され、2016年10月に中国代表監督に就任します。
リッピ監督は2006年のFIFAワールドカップドイツ大会で、見事イタリア代表を優勝に導いています。ですから、リッピ監督ならば、中国代表チームを再びFIFAワールドカップの舞台に導いてくれるだろうと、多くの中国人が期待しました。
しかしながら、リッピ監督をしても中国代表は2002年以来の悲願を達成できなかったのです。大きな期待を抱いていただけに、その反動は大きなものとなりました。日韓両国が連続出場しているだけに、中国代表がずっと2002年以来一度もFIFAワールドカップに復帰できずにいることに、中国人サッカーファンは忸怩たる想いを抱いています。
6. ワールドカップ優勝が国家の目標に
習近平国家主席は、サッカーファンとしても知られています。国家目標として、中国がFIFAワールドカップで優勝する事を上げている程です。未だにアジア代表として世界の舞台に復帰できていない現状においても、その野望を口にして止みません。
現状との乖離で言えば、少し無謀な目標とも言えますが、習近平国家主席が最高責任者を務める中央改革全面深化指導小組は、既に2015年段階で、サッカーの振興は不可欠として、「サッカーの全面改革方案」を会議の第1のテーマとして採択しています。数千人の幼児を「サッカーに特化した」幼稚園で育成する壮大な計画を準備しているとも言われています。
卓球が国技と言える中国ですが、政治的にもサッカーで国威発揚を図っており、経済同様に中国がFIFAワールドカップで優勝する日も遠い事ではないのかもしれません。
7. 日本代表に対する憧れ
一方、サッカー界のみならず、中国人の日本に対する感情は好転しています。政冷経熱と言う言葉がある様に、政治的には冷淡な関係ながら、民間の経済関係は熱を帯びていると称した熟語が表す通り、国家としての関係は良好ではないとはいえ、一般市民レベルでは友好な関係は維持されています。
筆者も長く中国に駐在していましたが、反日の中国人に会った事は無く、むしろ親日的な中国の皆さんと楽しく生活して来ました。折りしも、世界的な日本のサブ・カルチャーは、熱狂的に中国でも親しまれています。
同様に、1998年から連続してFIFAワールドカップにアジアの代表として出場を続けているサッカー日本代表も、リスペクトの対象になっています。特にロシアでのFIFAワールドカップで、日本代表がアジアチームとして唯一ベスト16に進出した事は、広く中国でも報道されて、アジアの誇りを示した日本代表に、SNSを中心として賛辞の声が相次ぎました。
現在、Jリーグには数多くの外国人選手が在籍していますが、アジア圏では圧倒的に韓国人選手が多く、最近ではタイやベトナムの選手の活躍も目立つ様になって来ました。
Jリーグに中国人選手が所属し活躍する様になれば、日中関係はサッカーを通じても深まることでしょう。そういう日が早く来る日を、筆者は願っています。
ちなみに中国人とサッカー観戦するときにはぜひ中国語を使って応援してみてください。中国人との距離もさらに近くになりますし、観戦がさらに楽しくなりますよ!以下に観戦時によく使われるフレーズをまとめましたのでぜひチェックしてみてください。
まとめ
一般の中国の皆さんにサッカーが浸透しているのかというとそれはノーです。まだまだコアなサッカーファンが少しずつ増加しているという感は否めませんが、再度FIFAワールドカップに出場できる事ができれば、急激にサッカーファンが増える環境のある国です。
リッピ監督退任後、同じくイタリア人のカンナバーロ監督が就任したものの、僅か2試合を指揮しただけで電撃退任してしまいました。中国のFIFAワールドカップの舞台への再登場の日は、まだまだ遠いのかもしれません。
中国人にとってワールドカップとは?在住経験者が感じる7つの印象!
1. 国民的スポーツと言えば
2. プロで活躍する世界的プレイヤーがいない
3. 日韓大会で初めてワールドカップに出場するも
4. 代表チームではなくクラブチームでワールドカップに出場
5. リッピ監督への期待感
6. ワールドカップ優勝が国家の目標に
7. 日本代表に対する憧れ
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