オリンピックでメダル獲得上位にランクされる中国ですが、意外な事に中国人にとってスポーツは、日本人の感覚よりも遥に縁遠い存在です。一般国民は、日常的にスポーツに親しんでいる環境には無いからです。その最たる原因は、学校教育における日中の違いが大きく作用しています。
日本ではどの学校にもクラブ活動が存在していますが、中国の学校にはクラブ活動は存在していません。学校に放課後活動の場はありません。ですから、文化部も運動部もありません。多くの学生が学校のクラブ活動で本格的にスポーツに親しみ、毎日練習し、様々な大会で競技する日本と違って、中国では日常的にスポーツに親しむ環境そのものが無いのです。
また、経済大国になったのはつい最近のことですが、国民一人当たりの生産性はまだ低く、お金をかけてジムやアスレチッククラブに行ける国民はまだ僅かという状態です。
ですから一般論として、オリンピックでメダル獲得数の多い中国なのに、一般市民レベルではスポーツが浸透している国とは言えません。オリンピックのイメージと現実の中国のスポーツ事情というのは、格段の乖離があるのです。この点が、読者の皆さんに先ず知っておいて頂きたい前提のお話になります。
中国人にとってオリンピックとは?在住経験者が感じる8つの特徴!
1. 極めて浅いオリンピックの歴史
オリンピックのメダル大国という印象の強い中国ですが、意外にもオリンピックに登場したのはつい最近のことなのです。
鄧小平副主席によって始められた改革開放政策は、経済だけでなく、スポーツにも及びました。中国が初めて選手団を結成してオリンピックに参加したのは、改革開放政策真っ只中の1986年ロサンゼルス・オリンピックの時ですから、けっこう意外ですよね。
実際は1952年のヘルシンキ・オリンピックに1名の選手が参加していますが、国家レベルで選手団を形成して参加したのはロサンゼルス・オリンピックが最初なのです。その背景には、第二次世界大戦によって大陸中国と台湾に生まれた中華民国という、二つの中国問題がありました。
政治とは切り離されるべきオリンピックですが、世界最大のスポーツ大会である為、実際にはこの件以外も含めて、政治的な影響を受けて来ました。ですから、中国のオリンピック参加は、1984年のロサンゼルス大会から、昨年のロシア大会まで、実質通算9回という短い歴史しかありません。
2. 初参加のオリンピックで大活躍する底力
本格的に国家として参加したロサンゼルス大会で、中国として初めてのメダルを獲得します。金メダル15個、銀メダル8個、銅メダル9個、合計32個という堂々たるメダル数でした。その数は、アメリカ、ルーマニア、西ドイツに次いで4位の偉業でした。
ちなみに日本も合計メダル数は32個で中国と同数でしたが、金銀銅のランキングで7位という順位でした。眠れる獅子とも称された中国が、初めて参加したオリンピックで世界4位のメダルを獲得してしまうのですから、世界中にその底力を示しただけでなく、改革開放政策と相まって、国威発揚に大きな影響力を発揮したのです。
3. メダル獲得ランキング
1984年のロサンゼルス大会から、2016年のリオ大会までの通算9回のオリンピックで、中国は合計で546個ものメダルを獲得しています。その内訳は金メダル224個、銀メダル167個、銅メダル155個という事で、金メダルの数がその他のメダルよりも多く獲得しています。
ちなみに、日本の場合は、オリンピック出場回数22回で、メダル獲得数は合計441個。その内訳は、金メダル142個、銀メダル134個、銅メダル165個という内容で、中国よりも総数で105個遅れを取っています。また、銅メダルの数が他のメダル数を上回っています。
最もメダル獲得数が多い国はアメリカで2546個。2位のロシアが1436個(ソ連時代を含む)ですから、圧倒的にアメリカの一人勝ちと言えます。中国のオリンピックにおけるメダル獲得総数は、参加9回で世界6位という成績です。今後参加数が増えるにつれて、ランキングは更に上昇する可能性が高いと言えます。
4. 国家によるエリート・アスリート養成
冒頭、中国はスポーツが一般国民に根付いている国では無い事をご紹介致しました。それなのに、オリンピックで多くのメダルを獲得するのはどうしてでしょうか?それは、国家がエリート・アスリートを養成する為に、優秀な選手になり得る逸材を、幼少期から特別なプログラムの基で育て上げているからなのです。
日本であれば、通常は一般的な学生生活を送りながら、運動部でスポーツに取り組み、全国レベルの大会に出場して成績を残すと、各競技団体から代表選手に選ばれて、世界選手権やオリンピックの出場権を得て、初めてオリンピックに出場できる仕組みです。
ところが中国の場合は、前述の通り学校に運動部が無く、広くあまねく行なわれるレベルの大会もありませんから、国家が各地で優秀な人材を見出して、国家として丸抱えで徹底的にエリート・アスリートに育成する仕組みを採用しています。言わば国家的スポーツ専門要員として、親元や世俗から離れて、スポーツの世界的な大会で活躍できる人材として密室で育てられるのです。
ですから、一般国民レベルではスポーツに親しんでいる国家ではないにもかかわらず、オリンピックでは好成績を残す事ができているのです。
なお、一般国民がスポーツを楽しむ数少ないイベントの一つが学校の運動会。以下に特集していますので、こちらも合わせて読んでみてください。
5. アジア人として壁を越えた伝説の選手
数多くの中国人メダリストの中で、筆者にはどうしてもこの二人を外すことができません。中国スポーツ界のレジェンドを言える存在の二人をご紹介致します。
一人目は、女性アスリートの朗平さんです。言わずと知れた中国バレーボール界の女王と言える存在です。1960年生まれ天津市出身。2でご紹介した中華人民共和国として初めてオリンピックに参加した1984年のロサンゼルス・オリンピックの女子バレー代表で、この大会で見事中国女子バレー初の金メダルに輝きました。強力なスパイクは”鉄のハンマー”と呼ばれました。
選手引退後は女子バレーチームの監督を勤め、中国代表、アメリカ代表、イタリアのセリエAモデナ、中国リーグの広東恒大を歴任しています。自国開催された北京オリンピックではアメリカ代表監督として参加し銀メダル、2018年のリオデジャネイロ・オリンピックでは中国代表監督として見事金メダルを獲得しています。
もう一人は、陸上競技選手の劉翔さんです。1983年生まれ上海市出身です。2004年のアテネ・オリンピック110Mハードルの金メダリストです。アジア人として、初めてオリンピックのトラック競技で金メダルを獲得しました。アジア人にとって陸上競技のトラック競技で決勝に残る事さえ困難な状況は今も続いていますが、劉翔さんはアジア人にとって最も困難と言われた壁を乗り越えた初の選手になったのです。
アテネに続き自国開催された北京オリンピックでの連覇が期待されましたが、予選で棄権するというアクシデントに見舞われました。しかし、劉翔さんの金メダル獲得以降現在まで、オリンピックのトラック競技でアジア人として金メダルを獲得した選手は一人として現れておらず、アジアのアスリートとして偉大な記録を樹立したヒーローとして、中国で最も有名なアスリートと言える存在です。
6. 偏りのあるスポーツ・カテゴリー
中国には国技が規定されていませんが、一般的に卓球が国技と言える存在です。前述の通り、中国では一般市民レベルでスポーツが普及している国家と言えない側面がありますが、殊卓球だけはポピュラーなスポーツと言えます。また、卓球の次にポピュラーなのがバドミントンです。この二つの競技は手ごろに行なえる上に、世界的に中国が強いスポーツと言う事ができます。自ずとオリンピックでもメダル獲得数が多い競技に数えられます。
また、特殊な競技であるにも関わらず中国が伝統的に強いのが高板飛び込みです。極めて一般化し難い種類のスポーツの一つですが、中国は伝統的に強く、メダルも数多く獲得しています。直近のリオデジャネイロ・オリンピックでは、中国のメダル数が多いランキングは、1位高板飛込、2位ウエイトリフティング゙、3位卓球、4位陸上競技、5位バドミントンと言う競技です。
なお、アジア各国に言える事ですが、ボールゲームは弱く、対人競技に近いカテゴリーに強みを発揮しています。メダル獲得数が多いとは言え、中国の世界的なアスリートは、やや偏ったカテゴリーに存在していると言える様です。
7. 自国で開催された北京オリンピック
1984年に本格的にオリンピックに参加した中国にとって、悲願であったオリンピックの自国開催は、20年余りの時を経て、改革開放政策により高度経済成長真っ只中の2008年に北京オリンピックとして実現しました。
大中国の首都であるにもかかわらず市内に数多く散見された古いあばら家の様な住宅はみるみる撤去され、北京市内には高層ビル群が林立し、上海さながらの近代都市の様相に変化を遂げました。2010年に上海で行なわれた万国博覧会とセットであるかの様に、北京オリンピックは開催され、高度経済成長を遂げて近代国家の仲間入りを果たした事を全世界に知れ渡らせる為の一大イベントであるかの様でした。
この大会で、中国はメダル総数100個、内金メダル51個を獲得し、大会No.1の金メダル獲得を実現したのです。面子を大事にする中国にとって、面目躍如の大会となりました。オリンピックは国威発揚の婆として、開催国民に誇りと自信を植え付けます。大会の開会と閉会は、世界的に有名な中国人映画監督の張芸謀監督が、鳥の巣と呼ばれたメイン・スタジアムで高い文化性と威厳を示しました。
8. 帰化選手に見る中国代表問題
エリート・アスリートを養成するシステムの下、オリンピックに活躍する選手を養成する中国とはいえ、世界最大の人口を抱える国ならではの切実な問題は、代表に選考されなかった選手にあります。
国家丸抱えで育成される選手は、経済的な支援を国家から受けて育成されるので、一面羨ましい環境と言えますが、反面結果が出せない場合は育成プログラムから離脱を余儀なくされます。幼少期からスポーツ以外の教育を受けて来なかった彼らにとって、スポーツで自立できなかった場合は、一転して不幸な境遇にさらされる事もあると言われています。
昨今問題視されているのが、他国籍を取得する帰化問題です。中国代表には選出されなかったものの、他国では代表として選ばれる実力がある選手が、他国に帰化してその国の代表としてオリンピックに出場している問題です。
特に卓球競技においてそれが顕著になっていて、欧米の卓球代表選手の中に、見るからに中国人と思われる選手が多数存在しているのです。帰化して国籍を取得している以上、当該国の代表選手である事は間違い無いのですから、とてもナーバスな問題です。笑い話の様ですが、実際に発生している現象です。
まとめ
いかがでしたか?
高度経済成長の結果経済大国となった中国にとって、経済以外にスポーツの場面でも中国の存在が世界に認められる事は誇らしい事でしょう。オリンピックのメダル獲得数程、中国内のスポーツ普及度は高く無い事は余り知られていません。今回の記事によって初めて知った皆さんも多い事でしょう。
願わくば、スポーツが一般市民に普通に浸透する国になって欲しいという想いと共に、中国オリンピック事情をご紹介させて頂きました。
なお、スポーツ観戦するときに使えるフレーズを以下にまとめてありますので、ぜひこちらも合わせて読んでみてください。
中国人にとってオリンピックとは?在住経験者が感じる8つの特徴!
1. 極めて浅いオリンピックの歴史
2. 初参加のオリンピックで大活躍する底力
3. メダル獲得ランキング
4. 国家によるエリート・アスリート養成
5. アジア人として壁を越えた伝説の選手
6. 偏りのあるスポーツ・カテゴリー
7. 自国で開催された北京オリンピック
8. 帰化選手に見る中国代表問題
9. いかがでしたか?
高度経済成長の結果経済大国となった中国にとって、経済以外にスポーツの場面でも中国の存在が世界に認められる事は誇らしい事でしょう。オリンピックのメダル獲得数程、中国内のスポーツ普及度は高く無い事は余り知られていません。今回の記事によって初めて知った皆さんも多い事でしょう。願わくば、スポーツが一般市民に普通に浸透する国になって欲しいという想いと共に、中国オリンピック事情をご紹介させて頂きました。