お隣の国で共通点をたくさん持っている日本人と中国人。漢字や伝統行事、食文化などにもどこか似ているところがあります。でもいざ一緒に働いたり、仲良くなり話しているうちに「似ているようでやっぱり違う」と思うことも多いのではないしょうか。そのひとつが中国人の家族観です。
日本では家族と言えば父、母、子供。範囲を広げてもせいぜい祖父母を指すくらいですが、中国では親族全員が家族という感覚を持っています。しかもおじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさんも父方と母方で呼び名が変わるんです!今回は、中国人の家族に対する考え方をいくつかのポイントで紹介します。
中国人にとって家族とは?在住経験者に聞く7つの特徴!
1. 家族の呼び名が複雑
「今日はおばあちゃんの家に遊びに行く予定なんだ」このように言っても、祖母が父方なのか母方なのか確認しないとわかりませんよね。でも中国語では親戚の呼称がとても複雑で、こんな会話も呼び名ひとつですべて理解できてしまいます。
たとえば父方の祖父母は「爷爷(イェイェ)」「奶奶(ナイナイ)」、母方の祖父母は「老爷(ラォイェ)」「姥姥(ラォラォ)」と呼びます。また、いとこや両親のきょうだいであるおじ・おば、その配偶者まで呼び名で父方・母方、性別、年齢の長幼が区別されているので、日本人が一度聞いただけで理解するのは至難の業です。これは古くから男性を中心とする親戚関係が重んじられていることに関係しています。親族の呼び名で家長である男性側の血縁かどうか、家長との関係の遠近がわかるようになっているのです。
なぜ家長中心の関係性を大切にしていたかというと、まずは儒教の教えです。儒教は孔子の考えがもとになった学問で、同族を重んじ上下の秩序を重視しています。これに加え、昔から多民族国家で争いが絶えず、国が変わる度に「血族こそ信じられるもの」という思いが強くなったためと考えられます。その名残が現在の家族の呼称にも根強く残り、中国人の家族観のベースになっているのです。
2. 親は敬うもの、子は守るもの
中国人は親や祖父母をとても大切にします。親戚付き合いを面倒くさがりそうな年頃の若者であっても、旧正月や中秋節など一家団欒の日には親戚の集まりにきちんと顔を出し、祖父母や両親をいたわり、年下のいとこたちの面倒を見ています。家族の集まりは何にも優先されることなのです。
人にもよりますが、20代の若いうちから「早く両親を養ってあげたい」という気持ちを持っている人が多いです。年配者を敬い、小さな子供たちを可愛がる姿は、筆者も町中のバスや地下鉄でも頻繁に見かけます。後からお年寄りや乳幼児連れの人が乗ってくると、座っていた若者たちが何の迷いもなくさっと立ち上がり「こちらへどうぞ」と席へ誘導するのです。古くから儒教の教えが根底に流れている中国ですが、こういったところにも「敬老慈幼(けいろうじよう)」の精神が残っていると感じました。
3. 教育熱は日本以上!
日本人も教育熱心ですが、中国の親はその比ではありません。「投資は早ければ早いほど良い。何らかの分野で才能の芽が出れば良い」と考え、物心がつく前から子供にスポーツ、楽器、言語、プログラミングとあらゆる分野の習い事をさせるのが一般的です。また厳しい学歴社会でもあるので、良い大学に入るために「重点中学」と呼ばれる学力の高い中学を目指しています。
筆者の友人である中国人女性は「日本に住んでいるとついのんびりして、子供の教育が完全に出遅れてしまった」と慌てて幼稚園児の娘に毎日のように習い事をさせています。数年前、香港出身の歌手が3人の息子をアメリカのスタンフォード大学に入学させ話題となりましたが、その歌手は著書に「父親から『自分で学んだことだけは誰にも取られない』と勉強の大切さを教えられた」といったことを記しています。国家や社会よりも自分自身の実力で上を目指すのが確実、という考え方はとても中国人らしいと言えます。
1979年から2015年の間に厳格に導入された「一人っ子政策」の影響で、子供一人に対し父、母、両家の祖父母の6人の大人が期待の目を向け、習い事の送り迎えなど熱心にサポートしています。そして子供の成功は親たちにとっての成功にもなるため、子供は期待に応えるために一生懸命勉強するのです。
なお、中国の習い事事情については以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひ一読してみてください。
4. 家や車がない男性は結婚できない!?
筆者は上海で「息子を結婚させるために北京人の親は車を買い、上海人の親は家を買う」という話をよく耳にしました。北京人が車を好むのは面子を重んじる性格のため、上海人が家を重視するのは合理的な性格のためだそう。いずれにせよ男性側の親が息子の結婚前に家や車を準備するというのは中国で一般的な考えです。
中国のQ&Aサイト「Baidu知道(ジーダォ)」では「なぜ結婚のときに男性側が家を買わないといけないのでしょうか?」という質問に対し「ではあなたは奥さんの家に婿入りするのですか?あなたのご両親が『老爷(ラォイェ)』『姥姥(ラォラォ)』と呼ばれていいのですか?奥さんの両親が老いたら面倒を見るのですか?それなら奥さんに家を買ってもらってもいいと思います」と回答されていました。家長となる男性側が買うべきという考えが伺えますね。
しかし、一方で「昔の女性は仕事も収入もないが、現在の女性は自立している。結婚のときだけ古い習慣を主張するのは不公平」という意見も見られました。かつての習慣も変わりゆく途中なのかもしれません。
5. 配偶者を大切にする文化
日本ではあまり見かけませんが、中国では中年夫婦や老夫婦が手をつないだり腕を組んだりしている光景は一般的です。公園で社交ダンスに興じる老人サークルも多く、日本人よりも配偶者やパートナーとのスキンシップは濃厚です。
従来中国人には一度仲良くなった人にはとことん忠義を尽くし、自分のできることは何でもしてあげたいという人が多いです。当然配偶者に対するその気持ちはより強く、日本人からすると「そこまでやるの?」と思うこともしばしば。
中国のバレンタインデーは男性が女性に花を贈るのですが、奥さんの職場に旦那さんから薔薇の花束が贈られることもあるそう。びっくりしてしまうのと同時に、少し羨ましい気もしますね。
なお、中国のバレンタインデー事情は以下の記事で詳しく説明していますので、ぜひチェックしてみてください。
6. 子育て中はおじいちゃん、おばあちゃんが大活躍
日本ほど治安がよくないこともあり、下校の時刻になると中国の小学校の校門はお迎えの大人たちであふれかえりますが、その大半がおじいちゃんやおばあちゃんです。「育児を手助けする」というレベルではなく、平日は祖父母の家で生活し週末だけ両親のところへ帰るという子供も多くいます。また両親が外国で働き、子供だけ中国の祖父母宅で育てられているケースもあります。
筆者の知人の中国人男性もそのような家庭で「子供に会えなくて寂しくないのですか?」と聞くと「寂しいですが、毎晩テレビ電話をしていますよ」と言っていました。そして春節などの帰省前には「もうすぐ子供に会えるんです」と嬉しそうに写真を見せてくれました。しっかり働くのは親世代、子育てや家を守るのは現役を退いた祖父母というスタイルは効率的と言えるのかもしれませんね。核家族ではなくもっと大きい家族の単位で生活を運営している、という印象を受けます。
7. 最後に中国人から見た日本人の家族観は?
日本には「親しき中にも礼儀あり」という言葉があるように、家族であっても「ありがとう」「ごめんなさい」と相手に伝えるのが良いとされます。ですが中国人は家族や友人に対する垣根が日本人より低く、自分に何かしてくれた相手に「謝謝」と言おうものなら皆一様に「なにがありがとうなの!そんな仲じゃないのに」と顔をしかめます。寂しいとも感じるようです。
日本に嫁いだ中国人女性の知人は、いわゆるワンオペ育児をしていたところ「実家の親から『あなたは日本でたった一人で子育てをして、本当に苦労している』と言われるの。向こうではおじいちゃん、おばあちゃんがやってくれるから」と言っていました。筆者の周りでは仕事帰りに奥さんの職場まで車で迎えに来る旦那さんや、夕飯を作るお父さんの話は珍しくありませんでした。日本人の美徳や距離感、働き方、個人を尊重する姿勢は中国人の目にはそっけない、寂しいと映るようでした。
まとめ
いかがでしたか?
家族に対する考え方は全く違う日本人と中国人。家族との距離感は想像以上に近いです。筆者は家族ではなく友人というカテゴリーですが、驚くほど親身になってくれたり、同性同士で腕を組んだりする関係も慣れてしまうと案外心地よく、頼ったり頼られたりを楽しんでいましたよ。
またお年寄りや子供に優しい姿や、若い夫婦だけでなく老夫婦も仲良くしている姿はぜひ見習いたいと思いました。目に見えない違いだからこそ相手の文化や考え方を理解して尊重し、誤解やすれ違いのないようにできるといいですよね。
中国人にとって家族とは?在住経験者に聞く7つの特徴!
1. 家族の呼び名が複雑
2. 親は敬うもの、子は守るもの
3. 教育熱は日本以上!
4. 家や車がない男性は結婚できない!?
5. 配偶者を大切にする文化
6. 子育て中はおじいちゃん、おばあちゃんが大活躍
7. 最後に中国人から見た日本人の家族観は?